創作詩

組詩・故郷 -Country- 1

崩壊する世界


 同期のずれたテレビが
 遥か海の向こうの国での出来事を
 ノイズまじりに垂れ流している


 暗闇に弾ける青い光が いくつも いくつも……


 真っ暗な画面の上方に
 緑がかった青い光が ぽつり ぽつりと弾けると
 それまで何も映っていないように見えた
 テレビ画面の真っ暗な下半分に
 今まで見たこともない都市の輪郭が
 黒々とした影となったビル群の輪郭が
 ほんの一瞬だけ
 ぼうっと浮かび上がってくる

 あの光がひとつ弾けるごとに
 地上ではいったいいくつの生命が
 傷つき 怯え 震えていることか

 テレビのスピーカーが
 ノイズ混じりの現地リポートを流す

 「湾岸では現在……」

 「アメリカ軍の発表によりますと……」

 「ペルシャ湾岸駐留の……」

 「NATO軍は昨夜……」


 僕らが知りたいのはそんな事じゃない!


 彼らには見えているのだろうか?

 漆黒の夜空に爆音が轟くたびに
 恐怖に震え 絶望の声なき声をあげ
 瓦礫の下から這い出そうともがく
 歴史上には全く名も残らない一人の人間を


 彼らには聞こえているのだろうか?

 頭上から崩れ落ちてくる天井の残骸から
 必死で子供を救おうと被い被さり
 そのまま冷たくなってしまった母親の亡骸の下で
 泣き叫ぶまだ幼い子供の声が


 彼らはただ

 モニターに写し出されたCNNの映像を眺めながら
 自らの部隊が立てた作戦の行く末を見守りながら
 実際の戦闘に携わる部下の安否を気遣っているだけだ
 大きな怪我を負わせたり
 ましてや戦闘の犠牲になり
 勝手に死なれてしまったりすると

 犠牲になった兵士の家族や

 ヒステリックな平和主義者や

 高い税金を払ってくれている国民や

 世論という名のボスが決して黙ってないからね

 自らの地位と その立場の進退に
 異常なまでに敏感なだけの彼らさ


 また他の彼らは

 自宅のソファでゆっくりと寛ぎ
 最近めっきり会話も減り
 関係の冷えてきた妻が入れた
 ただ苦いばかりの薄い
 インスタントのブラジリアン・コーヒーを片手に
 並んでテレビに向かっている息子に
 父親の威厳を見せたいと

 「ほらテレビを見てご覧
 あのピカピカ光っているのが
 パパが作ったミサイルだぞ」

 その言葉に目を輝かせながら父を見上げ

 「凄いやパパが作ったミサイルが
  悪者をやっつけてるんだ」


 彼らの子供たちの声が聞こえるだろうか?

 「イェーィ やれやれェ
  あんな国の奴等なんかさっさと
  皆殺しにしちゃえばいいんだ」


 または

 「なんだか本物の戦争ってつまンないね
  ゲームより迫力ないしさ
  敵が死ンでるとこが映ンないじゃん」


 またときには

 「何やってンだろうなぁ
  あのミサイル一発でいったい
  幾らの税金が無駄になってるのか」


 彼らには聞こえているのだろうか?


 もう回りくどく彼らなどと云うのは止そうか……

 人間共よ……


 人間共よ

 おまえたちは自らの歴史に
 いったい何を残し そして刻んできたのか

 火薬 ダイナマイト

 手留弾 焼夷弾 対人地雷

 大砲 対空砲 戦車 戦闘機 空母

 枯葉剤 劣化ウラン弾 核兵器……


 核兵器……

 一対一の果たし合いと近代戦の差
 それと同じだけの近代戦と核戦争の差

 核抑止力という名に覆い隠された悪魔の甘い囁き


 一部の人間共はその美名の傘の元に
 悠揚と安寧を貪り続ける

 新たに核を手に入れた者共は
 大歓声と祭りの喧騒の中で
 核抑止力に喝采を叫び
 興奮に酔いしれる


 しかし知るがよい

 今までの緊張と疑心暗鬼の国際情勢をかなぐり捨て
 自らが他国の核の射程に捉えられた
 脅える羊たちとなった姿を


 もはや後戻りは出来ぬであろう

 おまえたち人類が刻み残してきた
 その過去の歴史と同じ様に……
 結論は はっきりとしている


 人間共よ

 振り返り 目を見開き とくと見るがよい
 自らの血で描かれたドス黒い年表を
 他者の血で染まった自らの赤い足跡を

 いったいこれから先
 さらに幾つの血が
 流され続けなければならないのだろうか……


 人間共よ

 未来は見えているのか?
 世界の崩壊の兆しは
 誰人も気付かぬうちに
 忍び寄ってきている


 人間共よ


 今までの歴史で自らが奪ってきた

 数知れぬ同胞たちの亡骸を

 天空高く積み上げ 物見の塔となし

 その頂に這い上り とくと見るがよい

 圧倒的な力に押し潰され

 もはや泣き叫ぶこともできず

 息も絶え絶えに弱り果てた

 自らの一族の変わり果てた未来の姿を


 世界崩壊の兆しは もう我等の眼前に