偽りの愛
偽りの優しさ
偽りの微笑み
偽りの幸せ
偽りの真実
偽りの現実
だがこの世に偶然はなく
必然の中に偽りはない
このこと
もう日は暮れかけていた。
それはいつの時代のことであったのか、十二月三十一日、大晦日とよばれる一年の締めくくり、世界中があわただしく新年を待つその日。何という街かはわからない、ある程度やさしく、ある程度つめたい、そんな人たちの住む、そんな人たちにぴったりの街で……。
その日は朝から曇天に包まれていた。人の肩に止まるとすぐに消えてしまい、積もることなくはらはらと降り続いた小さな粉雪は、午後になるともう降りてくることはなく、西から徐々に晴れかけた空には、傾き始めた陽が乾いた冬の町に明るく差しこんでいた。
そこは人通りの少ない路地であった。比較的大きな通りから、ビルの谷間をぬけるように細々と続いている。左手のビルの裏手には、小さな古い公園があった。近所の悪ガキどもも、この日ばかりは家でおとなしくしているのであろうか、子供たちのはしゃぐ声も聞こえない。路地の右手のビルは、一階が全フロア、十九世紀の西部アメリカ風に内装された、大きな喫茶店になっている。喫茶店は大晦日だというのに平常通りに営業していた。
時刻は、そう、もう夕方、辺りはそろそろ暗くなろうかという一歩手前、太陽の余韻は、ビルの谷間をぬけた大通りのむこう、西の空を今年さいごの夕焼け色に染めていた。冬の夕日は赤々と人々の目を射るように燃えている。すでに辺りに人影はなく、ただ公園の向かいにある喫茶店の窓から、テーブルに向かう人々の姿がちらほらと見えた。