大通りのいつものところに場所をとっていると、さっそく客がやってきた。 始めの客は、はっとするほど笑顔の美しい女性、いや少女であった。
占い師は、この少女をよく知っていた。裏通りに向かう路地のわきにある喫茶店のウェイトレスだ。あの喫茶店は正月も一日休むだけで、あとは平常通りの営業というから、ごくろうなことだ。
少女はまだあどけなさの残る涼しい目許をほころばせ、可愛らしく珠を転がすような、外見のイメージにぴったりとあった声でいった。
「すみません、私の来年の運勢を見てほしいんですけど」
占い師は、もっともらしくガラス制の水晶玉もどきをに手をかざすと、おなじみのはったりを──かなり好意的に──かました。それからかなりひどい占いをやったあと、
「あなたの悪い運勢を立て直すには、老人に親切にすることです。そうですね、あっ、見えました、ちょうどこの通りの裏にある公園です、その付近に一人の老人がいます、その人があなたの来年の運勢の鍵を握っています。そのひとに何かひとつ親切をしなさい、そうすればあなたの来年の運勢も上昇カーブをえがくでしょう」
始め心配げな顔をして聞いていた少女も、占い師のいんちきなまじないを聞くと、ほっと安心した表情にもどった。そして小さな声で礼をのべると、見料をわたしてたちあがった。
「あっ」
少女は時計を見てそうさけぶと、ばたばたと急ぎ足にかけていった。占い師が何気なく時計をのぞくと、長針は十一と十二の間で、限りなく十二よりを差していた。五十九分だ。きっとアルバイトにぎりぎりなんだなと、ひとりうなずく占い師であった。
その日ふたりめの客は、きりりとしたまだ若い青年であった。
彼は絶えずにこにと笑みを浮かべていたが、占い師にはその笑みが、ただの中身の無い表面だけのものだということが、長年の観察経験からわかっていた。
(いやなやつだ)
それが占い師の、彼にたいする第一印象であった。
「すみません、私の来年の運勢を見てもらえませんか」
(いやな声だ)
それが占い師の、彼にたいする第二印象であった。
占い師にはよくわかっていた、この男は女のためだけに生きているのだと、女性に魅力的に見えるようにと、ただそれだけを考えていたために、見事に自分の心を隠すための、感じのいいかぶり物のような外観を手に入れたのだ。
「うむ、あなたは来年、極端に女性との縁が薄くなっています……」
そういったときの彼の慌てようといったら、大通りの向こうからでもよくわかるほどであったろう。
占い師はいい気味だとばかりに、更にとんでもない占いを──疑われない程度に──散々かましながら、十分に彼の反応を楽しんでいた。
そろそろそんな遊びに飽きたころ、おもむろに例のまじないを教えてやると、彼は嬉々として公園へ走り去っていった。その喜びようといったら、大通りの向こうからでも十分に楽しめるものであった。占い師は自分の目の確かさに、ニタニタといやらしい笑いを浮かべていた。