創作詩

組詩・故郷 -Country- 2

輝ける世界


 夜は明けたかい?


 夜のうちに地上に舞い降り
 幾つもの木々の葉の上に
 そして草の上によりそった
 かすかな朝の水滴たちが
 黎明の暖かな光に気化し
 音を立てて空へと昇ってゆく


 近くの鶏舎から響いてくる
 朝の訪れを知らせる雄鶏の叫び……


 遠くを走る始発列車の微かな振動音……


 静かに目を見開くと
 姿を現わし始めた太陽に
 ほんのりと頬を染めたカーテンがゆれ
 今まで部屋を覆っていた闇を
 密かに侵食してゆく


 気付かぬうちに室内は
 徐々にと明度を増してゆき
 私ははっきりと大地の目覚めを意識する


 表へ出ると高い空は
 はんなりと青い輝きを見せ
 きりりと引き締まった澄んだ空気は
 まだ低い太陽の光を
 その胸いっぱいにと拡散する


 駅へ向かう道すがら
 私はわざと車の排気ガスの少ない
 裏通りばかりを選び
 小さな川沿いを下りながら
 その向こうに時々顔を覗かせる田畑を横目に
 さわやかな朝の空気を満喫する


 駅のホームに立ち
 低い太陽へまっすぐに向かう


 この星に息衝いている
 あらゆる存在を包みこむ大気を
 この肺いっぱいに取り込み
 私は今まさに この世界に
 起きようとしている事柄を
 はっきりと思い浮かべる


 ある都市では
 酸性雨に打たれながら
 崩壊を始めた彫刻たちが
 満月の光を美しく照り返しながら
 幻想的な姿を見せていることだろう

 ある港では
 ヘドロが波打つ大海の水面を照らしだす
 爽やかな太陽の輝きが
 目映いほどに照り返し

 ある小さな海岸では
 水平線に顔を浸した母なる星が
 大洋の上に彼岸へと続く
 黄金色の道をまっすぐに
 波打ち際まで延ばしている


 そしてそれらの景色を眺めているはずの
 様々な人々の姿も……


 私は通勤列車に揺られながら
 私を産み 育んできた
 この小さな
 そして美しい惑星に賛歌を送る


 あぁ おまえは美しい 誰が何と云おうとも
 神々しい太古の輝きは失われたとはいえ
 おまえは宇宙の至宝 光輝く虚空の女神

 おまえを非難するものを私は許さない
 醜い 薄汚れている 救いようがないと
 奴等におまえを非難する資格はないのだ

 私はおまえの美しさを崇拝する


 おまえを罵るものは おまえを汚すものだ
 おまえの美しさを被い隠し
 おまえの美の衰退を早める行為だ

 すでに汚れてしまったものを
 美しくしようなどと考えるものはないだろう
 真に美しい物を汚す人間がいないように

 誰もがそう

 散らかった部屋は いつまでもそのままなのだ
 汚れた道路には誰もがタバコを投げ棄て
 空缶は山積みとなる
 廃棄物が不法投棄された場所には
 さらに加速度的にゴミは増え続ける

 美しく輝く珠に曇りがあれば
 その美しさを知るものは
 曇りを除くために
 珠を拭い磨きあげるだろう

 おまえを醜く罵るものは
 おまえを傷つけ 汚し続けるだろう


 おまえの美しさを知るものは
 おまえになすり付けられた
 微な汚れを ひとつ ひとつと
 たとえそれが少しづつでも
 確実に取り除いてゆくだろう

 おまえの美しさを知る我々は
 おまえの美しさを保ってゆく


 おまえは歳と共に美しくなってゆくだろう
 若いころの神々しいまでの美を蘇らせ
 さらに歳に見合った落ち着いた美をも手に入れ
 そして遠くない未来には宇宙に冠たる惑星として
 羨望と嫉妬と崇拝とを集めるようになるだろう


 あぁ 地球よ
 おまえは輝くばかりに美しい
 おまえはその美しさを保ち
 これからさらに
 その美を増してゆくことだろう


 私たち おまえの崇拝者が
 この世に存在する限りは


 私は列車を降り

 会社へ向かう道すがら

 山積みにされた粗大ゴミや

 様々な投棄物で溢れた川を眺め

 絶望的な気持ちに浸りそうになりながら

 それでも自らの気持ちを奮い立たせ

 自身の存在に自信を持てと

 はかない足掻きを見せるのだ


 それは叶うことのない夢を見るため?

 それとも……