しあわせな老人 (13) どのこと? [END]

どのこと?

 新しい年は明けた。
 新年だといっても、さわやかな目出度い話題ばかりではない。
 裏通りの奥の奥、かたむきかけた木造の安アパートの一室で、静かに冷たくなっている老人が発見されたのだ。発見者はアパートの管理人、年始の挨拶によったところ、ブランド物の高級紳士服を着、亡妻の遺影と高額紙幣の束を胸に抱きかかえたまま死んでいる老人を発見、駆けつけた警察が調べたところ、老人が抱えていた札束は、前日にある資産家の家から強奪された紙幣の一部と判明した。その資産家は、用心のために札のナンバーを控えていたのだ。
 しかし、老人の部屋からも、老人の立ち寄りそうな場所からも、残りの紙幣は発見されなかった。老人の人相風体も、昨夜強盗に入られた資産家がのべたものとは、まったくちがっていた。
 しかも老人の死亡時刻や死因は不明、胃の内容物から死亡時刻を特定しようとしたが、食事の時間が不明のため曖昧なままだった。老人が生きたまま無事に、亡妻の写真とともに年を越せたのかは誰も知らない。
 老人は穏やかに、いや、微笑を浮かべながら静かに、そして永遠に眠っている。そう、今も……。
 新年の空は、青く、そしてどこまでもどこまでも、遥かに高く澄んでいた。