『セント・オブ・ウーマン/夢の香り(Sent of a Woman)』という映画をご存じでしょうか?
アル・パチーノ(Al Pacino)がアカデミー主演男優賞を受賞した映画です。
アル・パチーノ扮する盲目の退役軍人フランクのもとに、クリス・オドネル(Chris O’Donnell)扮する主人公チャーリーが世話役のアルバイトとしてやってきます。ある日フランクは家族の留守中にチャーリーと共にニューヨークへ出かけ、そこでの出来事がメインとなる映画です。
この映画の中で、パチーノ扮するフランクは、ずっとジャック・ダニエルズを飲んでいます。
ジャック・ダニエルズは私も大好きな、それも特に大好きなお酒のひとつです。
ジャック・ダニエルズといえば、日本ではバーボンとして有名ですが、実際はバーボンではありません。というかバーボンとは呼べないのです。
バーボンは、アメリカでは法律によって規制されており、法律の条件を満たさない限りバーボンとは名乗ってはいけないのです。ジャック・ダニエルズのボトルをよく見れば分かりますが、バーボン(Bourbon)という文字は全く表示されてはいません。書かれてあるのはテネシー・ウィスキー(Tennessee Whisky)という言葉だけです。
実際のバーボンにはケンタッキー・ストレート・バーボン・ウィスキー(Kentucky Straight Bourbon Whiskey)としっかりと表示されています。アメリカの法律ではバーボンと表示できるのは、原料にトウモロコシを51%以上使用し、アルコール分40%以上80%未満で蒸留し、内側を焦がしたオークの樽で2年以上熟成された、ケンタッキー州で造られたウィスキーだけでなのです。ジャック・ダニエルズはその表示どおりテネシー州で蒸留されるため、あくまでテネシー・ウィスキーであって、バーボンではありえないのです。
このように、アルコール飲料の表示は、各国の法律で規制される例は多々あります。
最近日本でよく知られているものでは「発泡酒」があります。「発泡酒」は「ビール」と混同されることがよくあるようですが、ビールとの違いは麦芽の含有量の差です。麦芽の量が少ないと「発泡酒」と呼ばれ、酒税法によって「ビール」よりも税金が安くなり、実際の販売価格も安価になるため重宝されているようです。最近国会では「発泡酒」の税率を引き上げようという動きがあるようですが、安価な(簡易)ビールを消費者に、という「発泡酒」の意義を考えると、我々消費者をバカにした意見にも聞こえてきます。
そのほかには、日本では「純米酒」という規定もあります。「純米酒」とは米と米麹だけで作られた日本酒に限って表示できるもので、一般の日本酒は米と米麹以外に醸造アルコールといういわゆる化学薬品が含まれているのです。
海外では他にシャンパンに関する規定も有名ですね。日本では発泡性(炭酸が含まれている)ワインを全てシャンパンと呼ぶ人が多いようですが、実際にシャンパンと呼べるのはフランスのシャンパーニュ地方で、法律に則った製法で造られた発泡性ワイン(スパークリング・ワイン)だけをシャンパンと呼ぶのであり、それ以外のものはすべてスパークリング・ワインと呼ばれるのが正式なものです。ただし、シャンパン以外でも、スペイン産のものはカバ、イタリア産のものはスプマンテと特別な呼称で呼ばれているものも多くあります。
これら以外のお酒でも、呼称に関する規定は多々あります。お酒の種別は、ひとことでまとめられないほど複雑で厳密なものなのです。
このように世界では、お酒というものはそれぞれの国の法律によって、その呼び名を規制されています。しかし、日本においてジャック・ダニエルズというテネシー・ウィスキーは、バーボンとして知られており、じっさいにバーボンとして売られていることも多いのです。実際蒸留している場所が違うだけで、製法は全く同じなのですから、バーボンと呼んでさしつかえないようですが、アメリカの法律で決められている以上ジャック・ダニエルズはバーボンと呼んではいけないのでしょう。逆にジャック・ダニエルズはテネシー・ウィスキーとして、一般のバーボンと区別されている特別なお酒とも考えられますね。
映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』の中でこんな台詞があります、私がもっとも好きな台詞です。
フランク 「ジョン・ダニエルをずらっと並べろ」
チャーリー「ジャック・ダニエルズじゃないんですか?」
フランク 「俺は付き合いが古いからジョンと呼んでいいんだ」
ジョンと親しげに呼べるまで、長く付き合いたいものですね。