シェリー


女 「ねえ、私シェリー酒が飲みたいの、いい?」
男 「いいよ。すいません、シェリーを一杯」

 バーでの何気ない会話、女性の前に差し出されるシェリー酒。ドライ、スペインのティオペペ。良く磨かれたワイングラスに注がれた黄金色の液体、思い切り冷やしてある。
 シェリー酒とは何か。簡単に言えばワインの一種である。フォーティファイド(酒精強化)・ワイン、アルコール度数を高めるためと、ワインよりも日持ちを良くするために、ブランデーなどをブレンドして発酵させたワインである。
 少し酸味のある独特の味わいと、えも言われぬ芳り……。
 私も大好きなお酒である、一時期、自宅の冷蔵庫に常備していたものだ。

 女性に対して、非常に奥手だった私は、好きな女性に告白するなんてことは考えられなかった。もちろん彼女もいなかった。しかしある時、ある女性に意を決して、
「今度ふたりで食事に行かない?」
と言った。デートに誘ったのだ、ずいぶん思い切ったものだ。
 彼女と行ったのは、小さな店だが、鮮の良い魚と、おいしい馬刺が自慢の、まだあまり知られていなかった隠れ家的な場所だった。
 私の仕事がはねてからだったので、もう深夜であった。閉店まで一時間ほどしかなかったが、私たちの他にお客さんはおらず、貸し切り状態で食事を堪能した。
 私は目当てが馬刺であったため、ドリンクは赤ワインのベビーボトルを、彼女は芋焼酎のお湯割り……。
 店は閉店となり、次の店へ。ここも隠れ家的な店で、手の込んだ料理を格安の料金でサービスしてくれるが、それよりもお酒の品揃えがここら一帯では一番なのだ。
 この店では彼女はカクテルを、私はターキーをストレート・ノーチェイサーで、楽しく会話は弾んだ。
 さてそろそろ帰ろうか、というころ、マスターがティオペペのボトルを持ってきた。
「もう残りが少ないから、飲みな」
 フルートタイプのシャンパングラスふたつが目の前に、良く冷えたシェリーが注がれる、ちょうど二杯でボトルは空になった。
 まいどまいど独り酒の私が、初めて女性とペアで来店したのが嬉しかったらしい。マスターのおごりである。
 大好きなシェリーに口をつける、旨い! と彼女を見ると、グラス片手に難しい顔をしている。
「どうしたの?」
「私この味苦手……」
シェリー独特の酸味が口に合わなかったらしい。
 せっかくのマスターのおごりである、残すのはマズい、私は彼女からグラスをもらい、一気に飲み干した。
 そして空になったシャンパングラスを残して、二人は店を後にした。

女 「ねえ、私シェリー酒が飲みたいの、いい?」(今夜は私をすきにしていいわよ)
男 「いいよ。すいません、シェリーを一杯」(わかった、最後までつきあうよ)

 シェリーという酒に込められた、女から男へのアプローチ。シェリー酒の持つ秘められた意味……。

 その後の私たち二人の関係がどうなったのかは、シェリー酒の持つ隠された意味を考えれば当然の成り行きになってしまった。
 こうして私の初めての告白は、無惨に砕け散った……。

 逆に男から女へのアプローチには、同じくフォーティファイド・ワイン、ポルトガルのポートワインを使う。

男 「ねえ、ポートワインを飲んでみないか?」(今夜、とことんまでオレにつきあってくれないか?)
女 「そうねえ、私ふつうの赤ワインがいいわ」(そんなのまっぴらごめんよ!)

Thu Jul 27 2006

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