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次の日はとんでもないことになった。深夜、ナースコールに呼ばれた当直の看護婦M子さんが、子供達の病室へかけつけると、ベッドの上で五郎君が嘔吐しながら転げ回っていたというのだ。検査の結果わかったのは、五郎君の嘔吐の原因は、いつのまにか食べたショートケーキとともに、ヒ素を食していたということだった。にわかに病院中が大騒ぎになった。次の朝、星野病院には数名の警察官が登場し、慌ただしくも殺気だった雰囲気に包まれていた。
私のベッドの向かいのJ君は、ヒ素入りケーキの話を聞くとサァッという音が聞こえるかと思うほど一瞬に青ざめてしまったのだ。無理もない、昨日あんな話をしたばかりなのだ。どこでどう聞いたのか、その二人の刑事、眼鏡をかけた出っ歯の刑事とまん丸と太った刑事がその話を聞きにきた。
出ッ歯の刑事は九条と名乗った、太っちょの方は小島といった。
数日前に個室から私の隣のベッドへ移ってきた男が、ロビーやナースステーションで聞きこんで来た話によると、昨日のJ君の創作童話の話は、もうすでに病院中に広がっているらしい。彼の創作した通りの奇跡が続けて起きたことに関しては、にわか名探偵達が、あらゆる推理憶測を飛ばしているということであった。
J君は青白かった顔を、よりいっそう蒼白に染めて、冷や汗を流しながら刑事の質問に答えている。
「あれは、その、雪ちゃんのお父さんのことですが、その日にロビーで、雪ちゃんのお母さんが雪ちゃんのお父さんと電話で話しているのを立ち聞きして……。それからあの話を作ったんですよ」
「では、五郎君のケーキのことは?」
と九条氏。
「それは……、あれは即興で、その場で五郎君に願いごとを聞いて創ったんです。僕に出来ることなら叶えてあげてもいいし、出来ないことならその時はその時だと思っていただけです」
「本当にその場で五郎君に聞いたんだね」
九条刑事の質問に対して、その点は保証するとの私の言葉に、刑事たちは振り返った。J君は突然の助っ人に、いくぶんほっとしたようだった。