ホシニネガイヲ

ホシニネガイヲ (7)


「あなたは?」
そう聞く九条刑事に、私はMという自分の名前を告げ、下半身付随で入院していること、子供達が童話を聞きに来ているときには、車椅子の練習をせずに、ずっとベッドの上で一緒に話を聞いている事を話した。そして、昨日のJ君の創作童話が即興であった事を証言した。そしてその後、J君が病室を抜け出したあと、ケーキの箱を手に帰ってきた事も……。
 するとそれまで黙っていた小島という太っちょ刑事が口を挟んだ。
「するとつまり、五郎君が食べたケーキはJさん、あなたが買って来たものだということですか?」
 ギロリとにらんだその目は、眠そうに半分トロンと下がっていたため、いくぶん迫力に欠けていた。しかし、それでもJ君にはいくぶんかは応えたらしく、彼の顔はいよいよ青く、というより、ほとんど紙の様に白くなってしまっていた。
「確かに、確かにあのケーキは僕が買って来ました、でも僕が五郎君にヒ素を盛ったなんてとんでもない。あのケーキは子供達に話をしたあと、こっそり病院からぬけ出して、そこの、その大通りを渡ったケーキ屋で買って来たんです。嘘じゃないです」
 J君は必死になっていた、何といっても殺人未遂、それも子供にたいする殺人未遂の容疑をかけられているのだ。必死になったおかげで、いくぶん顔に赤みがさしてきたのはよかった。
「それから、それからまっすぐ病室へ戻ってそこの」
とベッドサイドの棚を指し示し、
「そこの棚の中へ閉まっておいたんです。そうですよねMさん、見てたでしょう」
 J君の必死の訴えに私はうなずいた、そしてケーキの箱が病院の近所のH堂の箱であった事を告げた。
 九条刑事は、ベッドサイドにある、小ぶりの冷蔵庫のような棚の扉を開いた。インスタントコーヒーやクリーム、お茶やきゅうす、マグカップに湯飲みと、ありふれたものが入っている。
「Mさん」
と小島刑事。
「Mさんは誰かがその棚を開けて、何か怪しいそぶりをしているのを見かけられませんでしたか」
 私は、車椅子の練習をしているとき以外はずっとベッドの上にいる。その間以外の事は証言出来ないが、夕べJ君のベッドサイドで、というより、この病室内で怪しい人間は見ていない。
 刑事達は顔を見合わせた。
「Jさん、あなたがケーキの箱を持って、その渡り廊下を渡って、子供達の病室へ行って、それからどうなりました」
「は、はい。ええ、子供達の病室へ行ってそっとドアを開けると、五郎君とゆうき君の二人が起きていました。二人は窓際でずっと星空を眺めていたんです。僕は付き添いの方達を起こさないように、そっとその箱を五郎君のベッドに置いて、そのあとすぐにここへ帰って来たんです」