あるてみす

あるてみす (6)


「こんにちは、君は北小から来たの?」
 私は西小学校からの進学組だった、今まで顔もみたこともない以上、彼は北小学校からの進学組だと思ったのだ。彼はその体格とは違った子供らしい顔に、ニコリと白い歯を見せて、はにかむように笑って首をふった。
「僕、一週間前に東京から来たんだ。親の仕事の都合でね」
「すげぇなぁ、東京かよ。じぁあ転校生だな」
と隣りにいた友人が感心する。
「でも、別の中学から来た訳じゃないから、転校生じゃないだろう」
私がまぜっかえすと、その友人は
「でもタケル、とにかく転校生の新入生さ!」と笑う。
 新しい友人は驚いた顔をし、私に聞いた。
「君はタケル君っていうの? 僕はカケルっていうんだ。よろしくね」
 私の名前はタケル、彼の名前がカケル。名前が似ている、最初はただそれだけの理由で始まった友情だっだ。
 カケルは私と違って随分と活動的な人間であった。どうやら小学校入学の前かららしいが、スポーツ万能で、たいていどんな競技でも自在にこなしていたらしい。その当時も野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、水泳、鉄棒、陸上競技と、カケルはどんなものでも一通りこなし、そのほとんどの競技で上位に入る実力を持っていた。かといって勉強の方ができない訳でもなく、学年でも上位五位に入るくらい頭は良かった、更にユーモアのセンスもあり、入学してすぐにクラスの人気者になってしまった。小学校時代の“しがらみ”がないためか、カケルは誰からも好かれたし、誰とも敵対しなかった。

 それは一学期も半ば過ぎ、新しい校舎や中学生活に慣れ始めた頃だった。
 梅雨の真っ只中だったろうか、昼休みの時間だったのははっきりしている。じめじめとかび臭い雨が、数日間も降り続いたため、校庭は全体が大きな水たまりとなり、人の姿はまったくない。食後の運動だとばかりに、はしゃぎまわりたい連中は、おんぼろ講堂と廊下を走り回っている。「食後はのんびりと過ごしたい」と考えている一部の生徒たちは、こうやって、校舎の外れにある図書室に入り浸っている。そのとき私とカケルは、図書室の窓際にもたれ、のんびりと雨にうたれつづける校庭を眺めていた。私は、カケルに子供っぽいと笑われながら、エンデの『モモ』を片手に、ジジが話す「コロシアムの上にもう一つ地球を作ってしまう」という話をしていた。地球にある材料だけを使って、新たに地球を作る話だ。材料は地球一個分しかないのだから、結局新しい地球が残って、古い地球はなくなっていしまう。
 少しずつ旧地球から材料を持ちより、新地球を作るとして、重力以外の何で新地球をまとめていけばいいのか。地球の“核”は、いったい何に入れて運べばいいのか。だとかのくだらない問題を、インチキな理論でもいいから、納得がいくように相手に説明できるかを二人で競っていた。たしか私は、地球の地軸が傾いたのはこのときだ、と訳の分からないことをいったのを覚えている。
「でも、あらかじめ陸地を造ってからでないと、海水を入れることが出来ないよ。新地球の陸地が出来るまで、旧地球の海は、宇宙空間に置きっぱなしにしないと」
 カケルが、そんなとんでもない空想をし、私が
「でも陸地が出来てるということは、その時には、新地球に重力が出来てるはずだから、コロシアムの上空から、とんでもない量の海水の雨が降ってくるはずだ、この時、泳げない人間はみんな死んじゃうんだ」と、さらに理論を暴走させる。
 カケルが突然「海へ行こう」と誘ったのはその時だった。