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出発当日、八月十日金曜日、その日はとにかく暑かった。
朝を迎えると、すぐに飛び起き窓を開ける。期待に胸を弾ませながら空を見上げると、雲ひとつない青々とした全天にわたり、溢れかえるどっしりと重い密度の濃い太陽の光量。これならきっと、日本全国海水浴日和、と思いきや、テレビの天気予報をみると、我が街は午後から発達した温暖前線につかまり、明日の午後まで土砂降りとのこと。しかし私とカケルは昼前にはこの街を発ち、温暖前線につかまる前に、はるか遠い日本海を望む町まで去ってゆく。我々の目的地は、天気予報では晴天。長期予報を見てもここ一週間は、崩れることはないだろう。
九時前に駅前に集合。
私は大きなユニオン・ジャックのTシャツにストーンウォッシュのブルージーンズ、布製のサンバイザーに白いスニーカー、手には水色のスイミングバッグ。そんないでたちで待ち合わせの駅へ向かった。
カケルは先に来ていた。まっさらな白いTシャツに、デニムのショートパンツ、ローカットの黒いコンバースに黒色の野球帽、背中には布製の黒いナップサックを背負っている。こんなに暑いのに、カケルはさっぱりとしたさわやかな笑顔で手を振っていた。
「おはよう。タケル」
「おはよう。めちゃめちゃ晴れたね」
「うん。暑くてたまらん、さっさと海に飛び込みたいよ」
二人で連れだって地元駅を出発、列車は溢れる光と熱に焼かれながら、一路ターミナルステーションを目指す。私の初めての旅が始まったのだ。
始めは空いていた車内も、時間がたちターミナルステーションへ近づくにつれ、目にみえて混雑してゆく。三十分ほど揺られていくと、一気に線路の周囲は開け、線路の数は十数へも分岐してゆく。その周りには背の高いビル群が連立し、列車はそのメトロポリスの中をゆっくりとターミナルステーションのホームへと滑りこんでゆく。
「タケル、朝メシ食った?」
「ううん」
「オレも。ハラ減っちゃって」
「駅着いたら何ンか買おうか」
「ああ」
列車はここが終点だったため、乗客は総て下車する、私たちも満員の人ごみをぬって、目的の特急列車のホームへとたどり着いた。
とにかく人が多い、山へ行く人、海へ行く人、様々な服装をした旅行客、丁度お盆休みに重なる時期なためか、家族連れの帰省ラッシュも重なり、大変な人出だ。ちらほらと背広姿のサラリーマンも見える。取り敢えず我々は、パンと牛乳で簡単な朝食を済ませるためキオスクへ向かい、特急列車を待つ間にホームのベンチで食事を済ませた。
「オレ、特急に乗るのって初めてなんだよな」
「うそぉ」
「ホント。カケルは毎年海に行くのに乗ってたんだよな」
「うん。でも東京からでも、僕がいたところからだとほとんど一日がかりだったんだ。ここからだと四時間もかからないけどね」