創作詩

Blues


 昔聞いたんだ
 真新しい靴じゃブルーズは歌えないって
 だれが決めたか知らないけれど
 きっとそうなんだ

 人生を知らない無垢で純粋な心じゃ
 ブルーズは歌えないんだ

 僕は履きならした泥だらけの靴を履く
 河沿いを下っていくんだ

 僕は泥だらけの靴で河沿いを下るんだ
 旅に出る

 河は広くて流れは緩やか
 昔聞いたんだ
 河の水は空が流した涙だって

 川上では小さな女の子が
 指折り雨音を数えている
 座り込んで 悲しみに浸って
 一粒一粒 数えてる

 ブルーズさ

 しばらくいくと大きな橋にぶつかった
 だれかが昔サックスを吹いてた橋かな

 遠くからガタゴトとディーゼルが近づいてくる

 「ヘイ 
  貨物の端にでも乗せてってくれよ
  僕は海まで出たいんだ」

 もう先客がいたけど
 気のいい運転手は気持ちよく乗せてくれた
 先客は汚れた赤いバンダナをまいて
 ハーモニカを吹いていた
 運転手の知ってる曲を
 次から次から吹いてった

 つられて僕も歌った


 12小節あれば十分さ


 先客は生まれ故郷を探すために途中下車した
 海までもうすぐなのに
 あとは海まで
 知ってる限りの歌を歌った

 潮の香りのする埠頭

 僕は岸壁に腰掛けて
 夕日に燃える港をみていた
 僕は岸壁に腰掛けて
 異国に旅立つ船をみていた
 僕の知らない港へ向けて
 僕の泥だらけの靴の下でゆれる波と
 同じ波の上をいく
 大きな船を見てたのさ

 そしたら涙が一粒こぼれた

 そう それが

 泥だらけの靴を履いた

 僕のたった一つの

 ブルーズさ


 12小節あれば十分さ


  10,October 1998