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刑事達が帰った後、J君はじっとベッドに入ったままうつぶせになっていた。原稿を書こうとワープロに手を出すでもなく、かといって童話を手に取るでもなく、じっと動かずにいた。まるで動いてしまうのが、即自分の破滅につながるとでもいうかのように。
無理もないと私は思った、彼の、五郎君への殺人未遂容疑は決定的だった。昨日この病室でJ君の話を聞いていたのは、五人の子供達と私だけであった。J君の並びのベッドに寝ている二人はもうすぐ退院だとかで、リハビリのために病室を出ていたし、私のお隣さんは最近入院したといっても、のそのそと病院中を探検するだけの元気は残っていた。ひとつ挟んだ廊下側のベッドは現在は空きになっている。
夕べ五郎君のベッドにケーキが置かれるのを知っていたのは私とJ君の二人だけ、五人の子供達はケーキが出てくるかもしれない、と漠然と思っていただけだろう。とすればケーキにヒ素を盛ったのは私かJ君かどちらかということになる。刑事達の考えでは、私は車椅子がなければベッドから出られないのだから、車椅子が入れないJ君のベッドサイドにある棚の中のケーキに、手を触れる事はできない。答えは簡単、2マイナス1イコール1、五郎君の毒殺未遂犯人はJ君というとこになる。まさか五郎君のベッドの上に置かれたケーキに、こっそりと毒を盛る人間がいるとは考えられない、同じ病室に五人の大人が付き添いとして泊っているのだ。
それからJ君は、青白い顔をしたまま、まったく口をきかなくなってしまった。無理もない、それ以来J君を見る周りの目がまったく変わってしまったのだから。それまでは子供好きのやさしい美少年として見られていた彼は、いまや何を考えているのかわからない殺人鬼だと思われているのだから。同室の人間からは、絶えず無視され、検診にくる医師や看護婦達からは常に白い目で見られているのだ。
子供達はパッタリとこの病室へ足を踏みいれなくなった、もちろん親のいいつけを守っているからだろうが、やはり半分はここが恐くなったからだろう。 二人連れの刑事は次の日もやってきたが、あまり調べは進んでいないようであった。