あるてみす (10)


 目的の駅へ到着したのは、お昼前だった。地元駅前に集合してから、もう、というか、まだ三時間程。
 小さな駅で、ホームは四つほどあるが、あまり使われているようには見えない。特急が停車するのが不思議なくらいだが、我々が乗った列車は、夏場だけの臨時列車で、この駅に特急列車が止まるのは、夏場のごく短い期間だけらしい。駅裏であるホームの向こうには、広々とした田畑が広がり、かなり離れて小さな山々が望める、その田畑の中程に巨大な看板がそびえている、
『ようこそ! 菅沼海浜へ』
我々が降り立った菅沼町は、海水浴場を抱えた、季節限定の観光町なのだ。普段は何でもないベッドタウンらしい。
 駅の反対、正面側へと目を移すと、こちらはうって変わり結構開けているらしく、二、三階建てと小さいながらも、いくつかのビルがぽつぽつとみえる。人通りも結構多そうだ。
 我々と同じ特急列車で到着した人々は、ざっと見渡しただけで、三、四十人ほどいた。みんなラフで簡単な服装をし、サンダル履きの家族連れが多いようだ。やはりみな海水浴にきた客らしい。
 改札を抜けると、小さなキオスクがあり、我々は安い弁当を買う、バスを一本見送りながら腹を満たした。弁当の空箱を片付け終えると、次のバスの発車まで十分程になっていた。
「カケル、海の匂がするんやね」
「え? ああ。そうかなぁ、別に感じないけど。それに海までだいぶ距離があるよ」
「でも感じるんだ。胸がどきどきしてる、何だか興奮してるんだ」
「ハハ、今からそんなんじゃ、実際に海を見たら、いったいどうなるか分かんないじゃん」
 カケルに笑われたが、実際私は興奮状態に陥っていたのだ。