あるてみす (11)


 駅前のバス停周辺は、下り特急が到着するのを待ちかねたように、慌ただしくなる。私たちは下り列車で到着した乗客たちに先立ってバスに乗り込み、ゆったりと席に着いた。発車したときは、正午を五分ほど過ぎていたろうか。
 菅沼町はのんびりとした雰囲気の田舎町で、駅前の通りは小さな商店街になっていた、菅沼商店街に並んでいるのは、日本のどの町でもお馴染みの、八百屋、魚屋、金物屋、小さな洋品店、全国チェーンの小さなスーパー、雑貨店、中華料理店というか町のラーメン屋等々。海が近いためか、商店街ですし屋を三店舗も見掛けた。
 どこにでもあるような町、それが菅沼町の第一印象だ。そしてとてもホッとさせられる町。その印象は、私が生まれ育った町と共通のもの、妙に落ち着いてしまう雰囲気だった。
 いくつかのバス停と信号を過ぎ、またいくつかの角を曲がると、磯の香は一層強くなっていった。そして、バスが走る道路の脇には、いつのまにか巨大な松林が並走するようになっていた。
 あの松林の向こうには、もう海が迫っているのだ。
 我々の目的地は、この菅沼海浜でも中心部から外れた辺りにあり、菅沼町と隣町とのほぼ境だという。駅前を発ってから二十分近くたってから、やっと車内アナウンスで目的のバス停の名が告げられた。

 遂にやってきた!
 バスを降りた私は、胸いっぱいに磯の香をため込むように深呼吸した。先程車窓から見えた海のイメージがフラッシュバックする。嗅覚が視覚のイメージを呼び覚ましているのだ。
 強烈なまでの磯の香りと、さわやかな松の匂い、風ひとつ吹かない中で照りつける焼けるような日射し。潮騒や浜辺の喧騒は、防風林に隔てられたここまでは届いては来ない。
「着いたね」
「ああ、君にとって初めての海さ。今の時期は毎年すごい人出だからね、きっとびっくりするよ、雑踏に」
 先に立って進むカケルにしたがって、私は防風林の間に造られたゆるくカーブした道を、初めての海岸へと向かっていった。