創作詩

詞たち


 今までに 私の魂から 産まれた
 幾百もの 幾百もの 詞たち

 遺されることなく
 はかなく夜空へ旅立った……

 月明かりの下
 星風に吹かれ
 どこへ彷徨い
 流離のエーテルとなったのか

 今もどかこの片隅で
 私の魂を伝え続け
 それはやがて
 この宙いっぱいに弘がっていくのだろう……

創作詩

多元宇宙論


 僕を中心に回る世界
 僕は世界の中心にいる
 地球は僕を中心に回っている
 宇宙は僕を中心に回っている

 君を中心に回る世界
 君は世界の中心にいる
 地球は君を中心に回っている
 宇宙は君を中心に回っている

 あの娘を中心に回る世界
 あの娘は世界の中心にいる
 地球はあの娘を中心に回っている
 宇宙はあの娘を中心に回っている

 あの老人を中心に回る世界
 あの老人は世界の中心にいる
 地球はあの老人を中心に回っている
 宇宙はあの老人を中心に回っている

 この世にはいくつもの世界・宇宙がある
 この世には客観は存在しない
 この世にはそれぞれの世界の主観しかない
 この世にはそれぞれの宇宙の主観しかない

 いますれ違ったあの青年
 あの青年を中心に回っている宇宙
 そして僕を中心に回っている宇宙
 なにもなくただすれ違っただけ

 しかし今
 確かに二つの宇宙が重なった
 あの青年から見た主観宇宙
 僕から見た主観宇宙
 そこにはたしたに
 二つの異なる世界が宇宙が存在していた

 通りを流れる人波
 無数の主観宇宙

 地球を満たす人類・生命
 気の遠くなるほどの主観宇宙

 そして確かに今
 僕と君の宇宙は重なった
 二つの主観世界が
 ひとつになるために

          Jul 24 2006

創作詩

言葉


 言葉は嘘や偽りだらけで
 偽善に満ちあふれている

 人を騙したり
 裏切ったり

 時にむやみに
 淡い無意味な期待を持たせたりもする

 それでも僕らは
 言葉に頼るしかなくて
 言葉でしか思いを表せなくて
 言葉でしか理解できなくて
 言葉を編んで詩を歌う

 それは言葉でしか伝えられない物があると信じて
 言葉でしか表せない物があると信じて

 幾百万の言葉の中に
 たったひとつしか
 真実がないとしても

 そのたったひとつの真実の言葉を求めて
 僕らは言葉を紡ぎ続ける

 僕はそうだ!

 君もそうだろ?

 だから僕は君の言葉を信じる!

 君も僕の言葉を信じてほしい

 可愛い可愛い君
 可哀想な可哀想な君

 ずっとずっと君を想っているよ
 ずっとっずっと君を忘れないよ

 だから僕が居るうちは
 逝かないでくれ

 一緒に立ち向かって行こう
 一緒に乗り越えて行こう
 十年後の自分を想い描いて
 生き生きと
 はつらつと
 社会で活躍している自分を目指して
 一緒に

創作詩


 暁を待つ闇の中

 じっと身じろぎもせず

 飛び立つ時を待つ

 今か今かと

 焦ってはならぬ

 ”その時”を待ちながら

 見逃さぬよう

 全ての持てるエネルギーを

 集中力へと高め

 ただじっと雌伏の時は過ぎぬ

 飛び立ってはならぬ

 時は未だ至らず

 ただ悠久の流れの中に

 自身の暁を期す

 飛び立つ瞬間

 我が暁を待ちながら

       2006/2/23

創作詩

希望


 希望よ! 希望よ! 希望よ!

 我に現実を越え行く翼を与えたまえ

 我に苦悩を越え行く翼を与えたまえ

 否 私には二本の脚があった

 翼は要らない

 この人生の苦悩と挫折の険しく暗き峰を

 私はこの二本の脚で

 例えそれが一本になろうとも

 例え手足をもがれたとしても

 必ずや越えてみせる!

 自分の力で!

 もう翼はいらない!

       2006年 元旦

創作詩


 「もう二度と戻ってくるな」
 そう言われて門を出た
 高く長く続く塀が遠くまで続く道
 車が一台停まっている
 傍らには父と母が待っていた
 八年前と同じ寒い冬の朝だった
 八年見ぬ間に父と母は
 ひと廻りも、ふた廻りも
 小さくなってしまったようだ
 私は何も言わず車の後部座席に座る
 車は真直ぐ私の産まれ育った家へと向かう
 八年前のあの場所へ
 私自身の罪と向き合う為に
 その為にはどれだけの勇気が必要か
 今の私にはまだわからない

    May 23, 2005

創作詩

夜明け


 夜が明ける

 漆黒の闇を突き破る光はもうそこまで来ている

 星々にしばしのお別れを

 冷たく美しい月よ、また会おう

 夜は明ける

 どんなに暗く辛い深い夜でも

 夜は必ず明ける


       May 23, 2005

創作詩

組詩・故郷 -Country- 2

輝ける世界


 夜は明けたかい?


 夜のうちに地上に舞い降り
 幾つもの木々の葉の上に
 そして草の上によりそった
 かすかな朝の水滴たちが
 黎明の暖かな光に気化し
 音を立てて空へと昇ってゆく


 近くの鶏舎から響いてくる
 朝の訪れを知らせる雄鶏の叫び……


 遠くを走る始発列車の微かな振動音……


 静かに目を見開くと
 姿を現わし始めた太陽に
 ほんのりと頬を染めたカーテンがゆれ
 今まで部屋を覆っていた闇を
 密かに侵食してゆく


 気付かぬうちに室内は
 徐々にと明度を増してゆき
 私ははっきりと大地の目覚めを意識する


 表へ出ると高い空は
 はんなりと青い輝きを見せ
 きりりと引き締まった澄んだ空気は
 まだ低い太陽の光を
 その胸いっぱいにと拡散する


 駅へ向かう道すがら
 私はわざと車の排気ガスの少ない
 裏通りばかりを選び
 小さな川沿いを下りながら
 その向こうに時々顔を覗かせる田畑を横目に
 さわやかな朝の空気を満喫する


 駅のホームに立ち
 低い太陽へまっすぐに向かう


 この星に息衝いている
 あらゆる存在を包みこむ大気を
 この肺いっぱいに取り込み
 私は今まさに この世界に
 起きようとしている事柄を
 はっきりと思い浮かべる


 ある都市では
 酸性雨に打たれながら
 崩壊を始めた彫刻たちが
 満月の光を美しく照り返しながら
 幻想的な姿を見せていることだろう

 ある港では
 ヘドロが波打つ大海の水面を照らしだす
 爽やかな太陽の輝きが
 目映いほどに照り返し

 ある小さな海岸では
 水平線に顔を浸した母なる星が
 大洋の上に彼岸へと続く
 黄金色の道をまっすぐに
 波打ち際まで延ばしている


 そしてそれらの景色を眺めているはずの
 様々な人々の姿も……


 私は通勤列車に揺られながら
 私を産み 育んできた
 この小さな
 そして美しい惑星に賛歌を送る


 あぁ おまえは美しい 誰が何と云おうとも
 神々しい太古の輝きは失われたとはいえ
 おまえは宇宙の至宝 光輝く虚空の女神

 おまえを非難するものを私は許さない
 醜い 薄汚れている 救いようがないと
 奴等におまえを非難する資格はないのだ

 私はおまえの美しさを崇拝する


 おまえを罵るものは おまえを汚すものだ
 おまえの美しさを被い隠し
 おまえの美の衰退を早める行為だ

 すでに汚れてしまったものを
 美しくしようなどと考えるものはないだろう
 真に美しい物を汚す人間がいないように

 誰もがそう

 散らかった部屋は いつまでもそのままなのだ
 汚れた道路には誰もがタバコを投げ棄て
 空缶は山積みとなる
 廃棄物が不法投棄された場所には
 さらに加速度的にゴミは増え続ける

 美しく輝く珠に曇りがあれば
 その美しさを知るものは
 曇りを除くために
 珠を拭い磨きあげるだろう

 おまえを醜く罵るものは
 おまえを傷つけ 汚し続けるだろう


 おまえの美しさを知るものは
 おまえになすり付けられた
 微な汚れを ひとつ ひとつと
 たとえそれが少しづつでも
 確実に取り除いてゆくだろう

 おまえの美しさを知る我々は
 おまえの美しさを保ってゆく


 おまえは歳と共に美しくなってゆくだろう
 若いころの神々しいまでの美を蘇らせ
 さらに歳に見合った落ち着いた美をも手に入れ
 そして遠くない未来には宇宙に冠たる惑星として
 羨望と嫉妬と崇拝とを集めるようになるだろう


 あぁ 地球よ
 おまえは輝くばかりに美しい
 おまえはその美しさを保ち
 これからさらに
 その美を増してゆくことだろう


 私たち おまえの崇拝者が
 この世に存在する限りは


 私は列車を降り

 会社へ向かう道すがら

 山積みにされた粗大ゴミや

 様々な投棄物で溢れた川を眺め

 絶望的な気持ちに浸りそうになりながら

 それでも自らの気持ちを奮い立たせ

 自身の存在に自信を持てと

 はかない足掻きを見せるのだ


 それは叶うことのない夢を見るため?

 それとも……

創作詩

組詩・故郷 -Country- 1

崩壊する世界


 同期のずれたテレビが
 遥か海の向こうの国での出来事を
 ノイズまじりに垂れ流している


 暗闇に弾ける青い光が いくつも いくつも……


 真っ暗な画面の上方に
 緑がかった青い光が ぽつり ぽつりと弾けると
 それまで何も映っていないように見えた
 テレビ画面の真っ暗な下半分に
 今まで見たこともない都市の輪郭が
 黒々とした影となったビル群の輪郭が
 ほんの一瞬だけ
 ぼうっと浮かび上がってくる

 あの光がひとつ弾けるごとに
 地上ではいったいいくつの生命が
 傷つき 怯え 震えていることか

 テレビのスピーカーが
 ノイズ混じりの現地リポートを流す

 「湾岸では現在……」

 「アメリカ軍の発表によりますと……」

 「ペルシャ湾岸駐留の……」

 「NATO軍は昨夜……」


 僕らが知りたいのはそんな事じゃない!


 彼らには見えているのだろうか?

 漆黒の夜空に爆音が轟くたびに
 恐怖に震え 絶望の声なき声をあげ
 瓦礫の下から這い出そうともがく
 歴史上には全く名も残らない一人の人間を


 彼らには聞こえているのだろうか?

 頭上から崩れ落ちてくる天井の残骸から
 必死で子供を救おうと被い被さり
 そのまま冷たくなってしまった母親の亡骸の下で
 泣き叫ぶまだ幼い子供の声が


 彼らはただ

 モニターに写し出されたCNNの映像を眺めながら
 自らの部隊が立てた作戦の行く末を見守りながら
 実際の戦闘に携わる部下の安否を気遣っているだけだ
 大きな怪我を負わせたり
 ましてや戦闘の犠牲になり
 勝手に死なれてしまったりすると

 犠牲になった兵士の家族や

 ヒステリックな平和主義者や

 高い税金を払ってくれている国民や

 世論という名のボスが決して黙ってないからね

 自らの地位と その立場の進退に
 異常なまでに敏感なだけの彼らさ


 また他の彼らは

 自宅のソファでゆっくりと寛ぎ
 最近めっきり会話も減り
 関係の冷えてきた妻が入れた
 ただ苦いばかりの薄い
 インスタントのブラジリアン・コーヒーを片手に
 並んでテレビに向かっている息子に
 父親の威厳を見せたいと

 「ほらテレビを見てご覧
 あのピカピカ光っているのが
 パパが作ったミサイルだぞ」

 その言葉に目を輝かせながら父を見上げ

 「凄いやパパが作ったミサイルが
  悪者をやっつけてるんだ」


 彼らの子供たちの声が聞こえるだろうか?

 「イェーィ やれやれェ
  あんな国の奴等なんかさっさと
  皆殺しにしちゃえばいいんだ」


 または

 「なんだか本物の戦争ってつまンないね
  ゲームより迫力ないしさ
  敵が死ンでるとこが映ンないじゃん」


 またときには

 「何やってンだろうなぁ
  あのミサイル一発でいったい
  幾らの税金が無駄になってるのか」


 彼らには聞こえているのだろうか?


 もう回りくどく彼らなどと云うのは止そうか……

 人間共よ……


 人間共よ

 おまえたちは自らの歴史に
 いったい何を残し そして刻んできたのか

 火薬 ダイナマイト

 手留弾 焼夷弾 対人地雷

 大砲 対空砲 戦車 戦闘機 空母

 枯葉剤 劣化ウラン弾 核兵器……


 核兵器……

 一対一の果たし合いと近代戦の差
 それと同じだけの近代戦と核戦争の差

 核抑止力という名に覆い隠された悪魔の甘い囁き


 一部の人間共はその美名の傘の元に
 悠揚と安寧を貪り続ける

 新たに核を手に入れた者共は
 大歓声と祭りの喧騒の中で
 核抑止力に喝采を叫び
 興奮に酔いしれる


 しかし知るがよい

 今までの緊張と疑心暗鬼の国際情勢をかなぐり捨て
 自らが他国の核の射程に捉えられた
 脅える羊たちとなった姿を


 もはや後戻りは出来ぬであろう

 おまえたち人類が刻み残してきた
 その過去の歴史と同じ様に……
 結論は はっきりとしている


 人間共よ

 振り返り 目を見開き とくと見るがよい
 自らの血で描かれたドス黒い年表を
 他者の血で染まった自らの赤い足跡を

 いったいこれから先
 さらに幾つの血が
 流され続けなければならないのだろうか……


 人間共よ

 未来は見えているのか?
 世界の崩壊の兆しは
 誰人も気付かぬうちに
 忍び寄ってきている


 人間共よ


 今までの歴史で自らが奪ってきた

 数知れぬ同胞たちの亡骸を

 天空高く積み上げ 物見の塔となし

 その頂に這い上り とくと見るがよい

 圧倒的な力に押し潰され

 もはや泣き叫ぶこともできず

 息も絶え絶えに弱り果てた

 自らの一族の変わり果てた未来の姿を


 世界崩壊の兆しは もう我等の眼前に

創作詩

時空の狭間に


 幾億もの輝きに包まれて
 遥かなる時空の彼方から僕等を見下ろす光たち
 天空の河の中にも その岸辺にも
 幾十億もの時を渡り
 暗黒の世界の旅の果てに
 この大宇宙のほんの小さな一点
 僕の瞳の水晶体の表面にまで
 たどり着いた一つの光子
 過去からの贈り物

 今この時に
 存在しているのかさえも定かでない
 一つの太陽から放たれた過去からの手紙
 その一通の手紙に見せられて
 遥かなる宇宙の過去と未来に魅せられ
 長大なる時間の旅に
 さまよう一個の人間の心
 その心の広大さこそ謎
 人の心の中に存在する宇宙
 永遠に近い過去まで遡り
 終わらない未来にまでたどり着ける心

 この果てしない星々の海の中に
 今この瞬間に
 時空の彼方に想いを馳せる僕等と同じように
 暗黒の空を見上げる者達が
 きっとどこかで息づいていると
 そう確信出来るようになるのはいつの日か
 幾百億もの時を隔てて
 この瞬間にも僕等に語りかけてくる
 限りない天の瞬きに
 祈りをこめて


   31,July 1996