三人目の客はすぐに現れた、太った動作ののろまな男だ。
目の油でテラテラと汚れた分厚い眼鏡ごしに見える重そうに垂れた眠そうな目は、実にいやらしい、見ているこっちまでが眠くなってしまう。
あなたの性格はああだこうだ、あなたの今までの人生はあーたらこーたら、と例によって例のごとくに適当なことをほざいていると、男は眠そうな目を精一杯に見開いて勝手に感心していた。
「どうも来年は、食べものに不自由しそうです……」
男の弱点はこれだった。
慌てたように公園へ、よたよたと皮下脂肪の塊を揺らしながら駆けてゆく後ろ姿が、実に痛々しかった。
四人目の客は、どっしりと貫禄のある、大会社の社長風の紳士。着ている服などから見ても、かなりの金持ちらしい。
この紳士、何か悩みでもあるのか、見料よりもかなり多い、高額紙幣を二枚も放り出した。
占い師は張り切って得意の観察と推理で、もっともらしくお世辞をまぜて、自説を得々とのべ、来年の運勢は登り調子でよいでしょう、ただし今年から引きずった問題がこじれて足を引っ張るでしょう。と悩みがあるような態度からはったりをかましたところ、みごとに急所をついたらしい、
「先生、その問題を、なんとか回避する方法はないのでしょうか?」
と聞いてくる。しめたとばかり、例のまじないを教えてやると、ありがとうとばかりに、さらに高額紙幣をもう二枚置いていった。
しかしどうしたのか、紳士は黒塗りの高級車に乗ると、さっさと公園とは反対方向の、西の住宅街へ車を向けていってしまった。
さて、五人目の客は、いかにも怪しげな頬に傷をもつ男。辺りをきょろきょろ見回し、何かに脅えている様子。どこからどう見ても、そこいらのやくざ者。さらにこの男も、黒いごつごつしたかばんをごそごそやると、高額紙幣を二枚投げ出した。占い師は、この男、何かやらかして逃げているらしい、と見当をつけた。
しかし高額紙幣を二枚ももらておきながら、さきほどの紳士とは打って変わり、あなたを何か黒い影が追いかけている、だとか、平和に来年を迎えられるかどうかわからない、などといって散々脅かし、終いには狭い部屋の中で狂い死にするかもしれない、などどいってやると、男はわけのわからない言葉をわめき散らしながら、占い師の襟元をつかんでゆさぶった。
「ちょ、ちょっと。し、しかし助かる方法はある!」
と例のまじないをおしえると、男は何に感激したのか涙を流さんばかりに高額紙幣をもう二枚置いて、公園へ向かってどたどたと走りさっていった。
しばらく客がとだえると占い師は、さて、とばかりに店じまいを始めた、どうやら家で一杯やりながら年越しのTV番組でも見るらしい。
すでに陽は暮れていた。